以前、「ホットプレートを利用したリフローの製作」をホームページに載せたが、鉛フリーのペーストはんだでリフローを行ったところ、パワー不足でうまくはんだ付けができませんでした。
そこで今回は、もっとパワーのあるトースターを利用したリフローを作りました。
トースターは、市販のものを使い改造は、温度を測定する穴を空けるだけにしました。
そのため、トースターは、はんだ付けの最高温度260度を出せるものが必要です。
またトースターに装着されている安全装置(温度フューズ、サーモスタット、タイマー)なども、使用できます。
製作したリフローコントローラーは、トースター内の温度を測定し、はんだ付けのプロファイルに沿って温度制御を行います。SSRでトースターのAC100VをON・OFFすることによって、リフローの温度制御を行います。
はんだ付けのプロファイルは3種類用意しました。
- 共晶はんだプロファイル(JEDEC規格を守りトースターの加熱能力でプロファイルを作成しました)
- 鉛フリーはんだプロファイル(JEDEC規格を守りトースターの加熱能力でプロファイルを作成しました)
- オリジナルプロファイル(希望する温度、時間を設定可能)
リフローの実行は、上記のプロファイルの選択(緑ボタン)したのち、「実行/停止」ボタンを押下するとはんだ付けが開始されます。
この際、トースターの設定温度は「280度」、コンベクション「入」、タイマー「15分」に設定してください。
トースターの設定温度は、リフローコントローラーで制御しますので、トースター自体の設定は280度にしてください。コンベクションはトースター内の暖められた空気をファンで一定にしてくれますので、はんだ付けがムラができないそうです。タイマー15分の設定は、リフローコントローラーは289秒(4分49秒)で終了しますが、万が一 終了しない場合、15分経過すると、電源が切れますので安全です。
仕様
- リフロー構成:トースターを使用したAC100V ON/OFF制御
- リフロー設定温度:室温~260度
- リフロー加熱性能:約2℃/Sec(max) 例25℃→145℃/0sec→60sec
- リフロー冷却性能:自然放射冷却(冷却手段はありません)
- はんだ付けプロファイル:3種類(共晶はんだ[muteric Profile],鉛フリーはんだ[Pb Free Profile],オリジナル[Original Profile])
- リフロー操作:プロファイル「選択」ボタンで、はんだ付けするプロファイルを選択後、「実行/停止」ボタンを押下する。
- オリジナルプロファイル作成方法:「温度」ボリューム、「時間」ボリュームで希望する値に合わせ、「設定」ボタンを押下することでプロファイルを作成する。
- 消費電力:最大1400W
- 外形:250mm*160mm*80mm
トースター
リフローで使用するトースターは、オークションで中古を入手しました。
鉛フリーのリフローでは最大温度が260℃になりますので、この温度よりも高い温度が設定できるものを選びました。
また、温度の集中を防ぐため、トースター内にファンがついているコンベクション機能がついていることも考慮しました。
このような観点から、シロカ ST-2A251がオークションで安価で出ていたので入手しました。
このトースターの温度は280℃まで設定できます。
トースターの加工
トースターの加工は、温度センサーをトースターの中に入れる穴を空けます。
トースターの後ろにM6に穴を空け、下図の中空ねじボルト 304ステンレス鋼 M6*25mm を取り付けます。
トースターの後ろからセンサーをトースター内に挿入し温度を測定します。
コントローラ ケース加工
トースターを制御するケースは、タカチ MB型アルミケース MB16-6-25を使用しました。
このケースに液晶パネル、ロータリーエンコーダー、スイッチ、コネクタなどを取り付けるための穴を空けます。
きれいに開けることができませんので、インクジェット印刷接着シールで下図のように印刷し、ケースに張り付けます。
液晶パネルの保護と、このシールのこすれを無くすために約1mmの透明パネルを上にかぶせています。
コントローラー
ブロック図で、液晶パネルKCG075、インバーター、KCG075インターフェースボードについては、ホームページの「KCG075 Display Interface」を見てください。このボードの拡張コネクタ部分を利用し「操作部」「MAX31855」ボードの制御を行います。
kcg075_display_interface_sch回路図のJ1 1ピンから20ピンまでを使用します
コントローラ部コネクタ(J1)
RF2(グレー) ロータリーエンコーダー:時間B | 19 | 20 | ロータリーエンコーダー:温度B (白)RF3 |
RF4(緑) ロータリーエンコーダー:時間A | 17 | 18 | ロータリーエンコーダー:温度A (茶色)RF5 |
RF6(緑) 温度センサー SCK1(クロック) | 15 | 16 | ブザー (黄色)(黄色)RG2 |
RG3(紫) 設定スイッチ | 13 | 14 | SSR (グレー)(グレー)RD0 |
RD8(白) modeスイッチ | 11 | 12 | 温度センサー SS1(チップセレクト) (白)RD9 |
RD10(青) START/STOPスイッチ | 9 | 10 | 温度センサー SDI(データー) (茶色)RD11 |
3.3V(オレンジ) | 7 | 8 | (オレンジ)3.3V |
5V | 5 | 6 | 5V |
12V(赤) | 3 | 4 | 12V |
GND(黒) | 1 | 2 | (黒)GND |
操作部回路図
MMI操作部は下記の要素で構成されています。
- リフローの実行/停止を行うタクトスイッチ(SW2)
- はんだ付けのプロファイルを選択するタクトスイッチ(SW3)
- オリジナルプロファイルの温度を設定するロータリーエンコーダー(SW1)
- 時間を設定するロータリーエンコーダー(SW5)
- オリジナルプロファイルの温度、時間をプロファイルテーブルに記憶させるための設定タクトスイッチ(SW4)
- はんだ付けの終了を知らせる基板取付用スピーカーUSGM30A-8-01(LS?)、
- SSRと接続するコネクタ(J1)
- KCG075インターフェースボードと接続するコネクタ(J3)
操作部コネクタ(J3)
RF2(グレー) ロータリーエンコーダー:時間B | 13 | 14 | ロータリーエンコーダー:温度B (白)RF3 |
RF4(緑色) ロータリーエンコーダー:時間A | 11 | 12 | ロータリーエンコーダー:温度A (茶色)RF5 |
RG3(紫) 設定スイッチ | 9 | 10 | ブザー (黄色)RG2 |
RD8(白) modeスイッチ | 7 | 8 | SSR (グレー)RD0 |
RD10(青) START/STOPスイッチ | 5 | 6 | 未使用(逆付け防止ピン) |
3.3V(オレンジ) | 3 | 4 | (赤)+12V |
GND(黒) | 1 | 2 | 未使用 |
ロータリーエンコーダー[EC12E2420801]または[EC12E2430803] 基板取付用スピーカーUSGM30A-8-01
温度センサー部コネクタ
1 | RF6(緑) 温度センサー SCK1(クロック) |
2 | 温度センサー SS1 (白)RD9(チップセレクト) |
3 | 温度センサー SDI (茶色)RD11(データー) |
4 | GND(黒) |
5 | 3.3V(オレンジ) |
温度センサーコネクタを介し、MAX31855モジュールに接続します。
MAX31855モジュールは、Kタイプ熱電対温度センサーからのアナログ信号をデジタル信号に変換し、シリアル通信で伝送します。
MAX31855モジュールとナットで板金に取り付けることができるKタイプ熱電対温度センサーがセットになったものを購入しました。
ナットで板金に取り付けることができるKタイプ熱電対温度センサーは、取り付けた板金の温度を測定するため、はんだ付けするプリント基板の温度を測定するには、不向きでした。左上のようなKタイプ熱電対温度センサーが,良いようです。
MAX31855_jpSSRと接続するコネクタ(J1)
1 | +12V |
2 | SSR ON/OFF信号 |
使用するSSRは、FORTEK社 SSR-40DAです。100V 40AのON/OFFが可能です。
本SSRの放熱を行うためにヒートシンク(150mm×60mm×25mm)を取り付けています。
コントローラ 組み立て
熱電対用ミニチュアコネクタ パネル用 メス K型用(MPJ-K-F-ROHS)
パネルマウント用ACアウトレット (AC-T09FB19)
オリジナルプロファイルの作成・実行
下の画像の緑の「選択」ボタンを押下して「orignal Profile」の画面を表示させてください。(左上の緑の枠の中です)
共晶はんだ[muteric Profile]のプロファイルが黒線で表示されています。(サンプルプロファイルです)
希望するプロファイルの温度、時間を黒色のつまみで左右に回転させ合わせてください。
希望する温度、時間は、下図の右下 黄色部分に表示します。
温度は5℃単位、時間は10秒単位で設定可能です。
設定値は、グラフ右下の黄色の場所に表示されます。
値が決まりましたら、黄色の「設定」ボタンを押下してください。
黄色の「設定」ボタンを押下すると、つまみで設定した温度(例:155度)、時間(例:130秒)がグラフ上に赤線で表示されます。
温度、時間を変化させて「設定」ボタンを押下することにより、希望のオリジナルプロファイルが作成できます。
オリジナルプロファイルを作成時の注意事項は、温度上昇から下降温度に設定するとトースターへの過熱を停止します。
例として、下のグラフでは220秒までは加熱しますが、220秒を過ぎたところでプロファイル温度が下がっていますので、ここでトースターの電源をOFFにします。
オリジナルプロファイルの作成が終了しましたら、「実行・停止」ボタンを押下するとはんだ付けが開始されます。
オリジナルプロファイルのグラフは黒色の線に変わり、この線に沿って、トースターが制御されます。
0秒から開始し、289秒まで実行されます。289秒になりますとブザー音がなりますので、トースターの前扉を開けて、プリント基板を冷却してください。
共晶はんだプロファイル[Muteric Profile]の実行
下の画像の緑の「選択」ボタンを押下して「Muteric Profile」の画面を表示させてください。(左上の緑の枠の中です)
共晶はんだのプロファイル[muteric Profile]が黒線で表示されています。
黒線のカーブは、JEDEC規格を守りつつ、トースターの過熱能力から 実験で求めました。
表示画面の下方に共晶はんだのプロファイル[muteric Profile](JEDEC規格)の条件を記載しています。
Preheatは100~125度で、60~120秒が必要です。
Meltingは138度で、60~150秒が必要です。
Reflow(最高温度)は225~240度です。
「実行・停止」ボタンを押下するとはんだ付けが開始されます。
プロファイルの黒色の線に沿って、トースターが制御されます。実行時の各時間の温度は、グラフ上に赤線で表示します。
0秒から開始し、289秒まで実行されます。289秒になりますとブザー音がなりますので、トースターの前扉を開けて、プリント基板を冷却してください。
220秒まで、プロファイルに沿って制御されていますが、220秒以降の冷却については、自然放射冷却(冷却手段はありません)のためプロファイルから外れます。
鉛フリーはんだプロファイル[Pb Free Profile]の実行
下の画像の緑の「選択」ボタンを押下して「Pb Free Profile」の画面を表示させてください。(左上の緑の枠の中です)
鉛フリーはんだのプロファイル[Pb Free Profile]が黒線で表示されています。
黒線のカーブは、JEDEC規格を守りつつ、トースターの過熱能力から 実験で求めました。
表示画面の下方に鉛フリーはんだのプロファイル[Pb Free Profile](JEDEC規格)の条件を記載しています。
Preheatは150~175度で、60~180秒が必要です。
Meltingは220度で、60~150秒が必要です。
Reflow(最高温度)は245~260度です。
「実行・停止」ボタンを押下するとはんだ付けが開始されます。
プロファイルの黒色の線に沿って、トースターが制御されます。実行時の各時間の温度は、グラフ上に赤線で表示します。
0秒から開始し、289秒まで実行されます。289秒になりますとブザー音がなりますので、トースターの前扉を開けて、プリント基板を冷却してください。
250秒まで、プロファイルに沿って制御されていますが、250秒以降の冷却については、自然放射冷却(冷却手段はありません)のためプロファイルから外れます。
ソフトウエア
ソフトウエアは「KCG075 Display Interface」で開発した液晶パネルを表示するソフトウエアに、トースターを制御するソフトウエアを追加することで作成しました。
上記のように、処理するタイミングを制御するためにcount_0_flag,count_13_flag,count_38_flagの3つのフラグを利用して処理を分散化しています。
その理由は、下図の液晶パネル処理タイミングで、29.63μSec毎に、液晶に表示するためのデーターをメモリからパネルにDMA転送しています。DMA転送でPIC32MX370F512Hの内部バスが約24μSec利用されているため、各処理が均一に行われるように処理の分散化を行っています。
下図の処理タイミングで、1秒単位で処理を行っています。
リフローコントローラの赤いボタンの「実行」時は、0mSecと500mSecでトースターのヒーターのON/OFF制御とプロファイルのグラフ表示を行っています。260mSecで実行ボタン押下からの経過時間を表示しています。780mSecでトースターの内部温度表示しています。これらの経過時間、トースターの内部温度は、パネルの右下の黄色部分に数値で表示します。
オリジナルプロファイルの時間、温度を設置時も、黄色部分に設定値が表示されます。(この時の温度は、トースターの内部温度ではなく、プロファイル設定温度です。
「停止」時は、上記の経過時間、トースターの内部温度は表示されず、パネルの右下の緑色部分に数値で表示します。トースターが停止時も、内部温度が冷えておらず「やけど」をしないように常時温度表示をしています。
はんだ付けのプロファイルは、配列 reflow_profile[30]に格納されています。reflow_profile[0]は0秒時における温度、reflow_profile[1]は10秒時における温度で、10秒間隔で目標とする温度が格納されています。
このため、トースターのヒーターのON/OFF制御は、現在の経過時間から目標となる温度が配列 reflow_profile[30]によって示され、温度が低いときはヒーターON、高いときはOFFします。これらの処理が0.5秒単位で行われます。