最近 TVの音声が聞こえづらくなったので、耳鼻科で聴力検査をしました。その結果、500Hz以上の周波数で聴力が周波数の上昇とともに落ちていました。
そこで、補聴器について調べてみました。
(1)アナログ補聴器・・・昔使われていたようです。
(2)デジタル補聴器・・・現在主流の物で、市販では10万円以上するようです。
(3)骨伝導補聴器・・・鼓膜を使用しないで骨伝導で音を脳に伝えるので理想的かなと思っています。骨伝導イヤフォンとスマートフォンのアプリケーションで補聴器を構成し実験しましたが、骨伝導イヤフォンとスマートフォン間は、bluetoothで通信を行うため、遅れて、音が聞こえるため違和感を感じました。(少しの難聴なので、ほとんどの音が聞こえるため、骨伝導イヤフォンからの音がエコーのように聞こえます)

私の場合、500Hz以上の音のみを補強すればよく、高度な処理が必要ないため、(1)のアナログ補聴器を製作することにしました。

補聴器全体図

設計概要

上の画像のように、イヤフォンに付属しているマイクからの信号を、左の補聴器本体で増幅し(500Hz以上の増幅率を上げる)イヤフォンに送ります。
イヤフォンは、セリアで販売しているXYY-32B(110円)を使用しました。
100円ショップでマイク付きイヤフォンをいろいろ試しましたが。これが一番、声が明瞭に聞こえました。
また、マイクを補聴器本体に内蔵する試作機も作りましたが、例えば、補聴器本体をテーブルなどに置いておくと、いろいろな振動などを拾うため、イヤフォンについているマイクのほうが雑音が入りずらいと思います。ただし、服とこすれたりしますので、その場合は、ピンなどでマイク部を浮かすことにより雑音を回避できます。

イヤフォンXYY-32表面
イヤフォンXYY-32B裏面

補聴器本体は、イヤフォンからの信号(マイク信号、右信号、左信号、GND)を4ピンの3.5mmミニジャックで受けます。
マイクの信号はモノラルですので、補聴器もモノラル構成としますので、イヤフォンも右、左とも同じ音を出力します。
補聴器は、持ち運びできるように電池(CR2032 コイン電池)で動くことと、低消費電力、小型に作りました。
操作は、電源ON/OFFとボリュームだけです。

設計(回路図)

補聴器回路図

使用したイヤフォンのマイクはコンデンサーマイクでしたので、回路図のR1,R2で電源を接続します。R1(4.7kΩ)とC1(0.1μF)でローパスフィルタを構成し、マイクに雑音が入らないようにしています。マイクからの信号は、負荷抵抗R3(2.2kΩ)で電圧信号になり、コンデンサC2(0.1μF)を介し、抵抗R5(30kΩ)に入力します。コンデンサC2と抵抗R5でハイパスフィルタを構成し、カットオフ周波数=1/(2π・R5・C2)=53Hzとなり、約50Hz以上の信号のみが入力されます。


オペアンプU1は新日本無線(JRC)のNJU77552を使用しています。このオペアンプは、低消費電流と高いGBWの両立、入出力フルスイング、優れたEMI耐性を特徴としており、電池駆動に向いています。このオペアンプを使用してマイクの信号を増幅します。抵抗R5(30kΩ)と抵抗R6(470kΩ)で反転増幅器を構成しています。増幅率は470kΩ/30kΩ=15.7倍です。また+入力には、抵抗R3(150kΩ)、抵抗R4(150kΩ)、コンデンサC3(0.1μF)で、バッテリーBT1(CR2032)の電圧3Vを半分1.5Vを生成しバイアス電圧として入力しています。

オペアンプU1Bの出力は、抵抗R7(15kΩ)とコンデンサC4(0.022μF)に入力します。さらにR8(2.2kΩ)でオペアンプU1Aのー入力に接続されています。また抵抗R9(3.3kΩ)とボリュームRV1(10kΩ)でフィードバック抵抗を構成しています。以下、ボリュームRV1は10kΩとして説明します。

オペアンプU1Bの信号が低周波信号の時、C4のインピーダンスが大きいため、U2Aの増幅率は(3.3kΩ+10kΩ)/ (15kΩ+2.2kΩ)=0.77倍となります。また、高周波信号の時、C4のインピーダンスが小さいため R7(15kΩ)の抵抗値が0になります。この時の増幅率は(3.3kΩ+10kΩ)/ (2.2kΩ)=6倍となります。この増幅率は入力信号の周波数によって変化します。抵抗R7(15kΩ)とC4(0.022μF)のカットオフ周波数=1/(2π・R7・C4)=1/(2π・15kΩ・0.022μF)=482Hzとなり 約500Hzから増幅率が上がり勾配は6dB/oct(周波数が2倍となると増幅率が2倍)となります。上記のように最大増幅率が6倍から、低周波での増幅率0.77倍から 6/0.77=7.8倍まで増幅率が変化します。約8倍と考えると、500Hzから1kHzで2倍、500Hzから2kHzで4倍、500Hzから4kHzで8倍から、 500Hzから4kHzで増幅率が変化することがわかります。

トータル(U1B、U1A)の増幅率を考えると(RV1が10kΩの時)、50Hz以上500Hzは15.7倍×0.77倍=約12倍、1kHzは12倍×2=約24倍、2kHzは24倍×2=約48倍、4kHz以上は48倍×2=約96倍となる。

全体の増幅率を上げるにはR9の値を大きくすれば可能です。また増幅率を下げるには、R9を0Ωすなわちショートし、ボリュームをMIN方向に回すと、音がしなくなります。C8,C9はオペアンプの帯域制限用として設計しましたが、実測では20kHzくらいで減衰するために使用しませんでした。またオシロスコープで見る限り発振もしておりませんでした。

オペアンプU1Aの+入力には、U1Bのー入力と同様、1.5Vのバイアス電圧を入力しています。オペアンプU1Aの出力は「コンデンサC6(220μF)を介してイヤフォン(32Ω)に出力しています。イヤフォンへはモノラル出力していますので、合成インピーダンスは32Ω/2=16ΩとなりコンデンサC6とハイパスフィルタとなります。カットオフ周波数=1/(2π・16Ω・220μF)=45Hzです。

組み立て

簡単な回路ですが、小型にするためにプリント基板を作成しました。

実装

ケース加工

使用パーツ

部品番号品名型名
電池CR2032
BT1電池ケースCH7410-2032(タカチ)
ケースTW5-2-7(タカチ)
ビス2φ×4mm 4本
プリント基板
C1積層セラミックコンデンサ0.1μF/50V
C2積層セラミックコンデンサ0.1μF/50V
C3積層セラミックコンデンサ0.1μF/50V
C4積層セラミックコンデンサ0.1μF/50V
C5積層セラミックコンデンサ0.1μF/50V
C6電解コンデンサ220μF/10V
C7積層セラミックコンデンサ0.1μF/50V
C8未使用
C9未使用
J14pin 3.5mmミニジャックMJ-4PP-9
R1金属皮膜抵抗 4.7kΩ 1/4W
R2金属皮膜抵抗 2.2kΩ 1/4W
R3金属皮膜抵抗 150kΩ 1/4W
R4金属皮膜抵抗 150kΩ 1/4W
R5金属皮膜抵抗 30kΩ 1/4W
R6金属皮膜抵抗 470kΩ 1/4W
R7金属皮膜抵抗 15kΩ 1/4W
R8金属皮膜抵抗 2.2kΩ 1/4W
R9金属皮膜抵抗 3.3kΩ 1/4W
RV1ボリューム 10kΩRV100F-30-6K3B
U1オペアンプNJU77552
U2スライドスイッチESD175202
イヤフォンXYY-32B(セリア)